2012-01-01から1年間の記事一覧

「頼れない国でどう生きようか」加藤嘉一、古市憲寿著(PHP新書、'12.11.1)−絶句!頼れない国で生きる頼れない若者たち

戦後68年も経つとこのような若者が輩出されてくるのかと、思わず嘆息してしまう。 要するに彼らが語るのは、国際化した現代社会における自己保身の方法論に尽きる。ここにあるのは、それと自覚しないままに垂れ流す自慢話と、彼らのどうでもいい私生活である…

「64」横山秀夫著(文芸春秋、'12.10.25)―周到!

横山秀夫は『半落ち』でのヒューマニズムに傾きすぎたエンディングがどうも肌に合わず、私の中で評価が揺らぎ、私が勝手にランク付けをしていた現役ミステリー系の書き手のトップ3(スリー)の地位を滑り落ちた。 ちなみにトップの3人は、池井戸潤、貴志祐…

「ホフマンスタールとその時代」ヘルマン・ブロッホ著(菊盛英夫訳:筑摩叢書、'71.5.25)−世紀末ウィーンへの憧れ(1)

世紀末ウィーンとは何と甘美な響きであろう。ウィーンで生まれたこの時代に開花した豊穣で爛熟した文化のアウトプット(知的生産物)の数々は、人類に計り知れない貢献をしている。いったいどんな時代であったのだろう。 そもそも、世紀末とはいつからいつま…

「このムダな努力をやめなさい」成毛 眞著(三笠書房、'12.10.)−論理破綻した無思慮な本、並み居るお気軽本のひとつ!

著者紹介欄で、86年から2000年まで14年間「マイクロソフト社」に勤務をし、そのうち91年からは社長を勤めたとある。 良くも悪くもこの勤務経験が、著者の物の考え方を陰に陽に支配しているに違いないと想像できる。 同じ著者紹介欄には、ビジネス界きっての…

kobo Touch電子ブックリーダーで、「最強マフィアの仕事術」(マイケル・フランゼーゼ)、と「経営分析のリアル・ノウハウ」(冨山和彦)を読んでみた。

楽天から、電子ブックリーダーkobo touchが無料で送られてきた。iPhoneで青空文庫などを読んだことはあるが、さすがに6インチタッチスクリーンは合理的なサイズで読みやすい。 早速、青空文庫からは、『草枕』、『吾輩は猫である』、『ドグラ・マグラ』、『…

「氷川清話」江藤淳・松浦玲 編(講談社学術文庫、'10.4.20)−劣化した日本人の政治家たちよ、今まさに勝海舟の声を聞くべし!

『氷川清話』には、手軽に手に入るものとして、江藤淳・松浦玲編集の講談社学術文庫版(左)と、吉本襄の流布本を底本にした勝部真長編の角川ソフィア文庫版(右)がある。 前者の編者の一人松浦玲は、解題において、最初に『氷川清話』を編集した吉本襄を口…

「組織戦略の考え方」沼上幹(ちくま新書、'03.6.10)をもとに病院の組織運営について整理してみた

このところ、しばらくブログを更新できないでいたが、実は、わが職場の組織運営について、標記の沼上幹氏の本を読みながら考え、レポートに整理する作業に集中していたためである。体裁は読書ノートで、ハーバート・A・サイモンや柳井正氏、その他多くの本を…

松山へ飛び道後温泉本館で湯に浸り、そして『仰臥漫録』(正岡子規)を読む

9月12日、羽田発14時15分発の全日空機で松山へ飛ぶ。 目的は、13、14日に開催される私の勤務する職場団体の「学術研修会」参加のためである。久しぶりによく晴れた涼しささえ感じる穏やかな日で、申し分ない快適なフライトであった。しかし松山に到着し、ブ…

「笛吹川」深沢七郎著(中央公論社)を抱いて石和温泉へ

9月5日(水)、職場に休暇を貰って、ドイツから帰国中の娘と家内と一緒に山梨へ遊びに行った。まず富士霊園で家内の父親の墓参を済ませた後、甲府盆地方面へ向かい、石和温泉の某旅館へ投宿する。甲府盆地には、この石和温泉のある笛吹市を初め、県庁所在地…

『日本人は知らない「地震予知」の正体』ロバート・ゲラー著(双葉社:'11.8.31)−<南海トラフ巨大地震被害想定>は、官学挙げての免罪符売りか、予算獲得のための実績誇示か?

国の二つの有識者会議(*)がマグニチュード9級の「南海トラフ巨大地震」の被害想定を発表した。気を付けたいのは、<被害想定>であって、<地震予知>ではないことだ。大袈裟にいえば、1年先か、もしかして千年先か分からぬ大地震の被害想定なのである。…

時代小説の楽しみ(1) 霊験お初捕物控「震える岩」宮部みゆき(講談社文庫、'97.9.15)−主人公お初の”凛々しい健気さ”が心を打つ

子供の頃から時代小説の虜になって今に至っている。小学校に上がるかどうかの頃、戦時中から戦後しばらくにかけて、本職の表具師の仕事が無くなった父親が臨時に就いた仕事が、県立図書館の児童部門の職員であった。多分親しくしていた県議の紹介ででもあっ…

「古典への道」より<中国古典をいかに読むか>新訂 中国古典選 別巻(朝日新聞社:S.44.04.15)

百目鬼三郎氏の「読書人読むべし」(新潮社)は、前にも書いたように、私の最も信頼するブックガイドであるが、中でも<中国の古典(1)>の章は、他に例を見ない優れた四書五経などの案内として繰り返し読んでいる。 その中で著者は、吉川幸次郎氏の「古典…

「陋巷に在り」(1)〜(5) (酒見賢一著(H.8.4.1 新潮文庫)―謎の孔子像に迫ろうという奇想天外の物語だが、孔子にも迫れず、そもそも長すぎる

安冨歩の「生きるための論語」(ちくま新書:'12.4.10)を読んでいて、ふと酒見賢一の「陋巷に在り」を思い出した。かなり以前に読んだ記憶がある。ただ、最初は非常に面白かったのだが、読み進むうち、次第にオカルト的な側面に辟易して第7巻で読むのを止め…

「朱元璋 皇帝の貌」小前亮(講談社、'10.11.2)

陳舜臣の「小説十八史略」はわたしの愛読書の一つだが、扱う時代の範囲は原作者の曾先之と同じ南宋の滅亡までである。この本の中では、新しく王朝を創設した英雄(梟雄)たちの破天荒な人物像が、生き生きとした興趣あふれる筆致で描かれている。殷を倒し周…

「狂人日記」色川武大著(講談社文芸文庫:'04'9.10)―襟を正して読む

この作品の主人公がまとっている狂気の正体は一体何であろう。著者にダブらせて<ナルコレプシー>と言いたいところだが、これは違うだろう。主人公が見る幻覚は、この病気特有の入眠時幻覚などという生やさしいものではない。 また、この小説で唯一、医師の…

「怪しい来客簿」色川武大著(文春文庫'89.10.10)―行間にうごめく存在の不気味

手元に2冊の文庫版「怪しい来客簿」がある。一つは角川文庫版で、昭和54年5月30日再版(写真左)である。もう一つは文春文庫、1996年(平成8年)7月30日第5刷(写真右)である。解説はともに長部日出雄氏だが、後者には色川氏が亡くなった後に書かれた付記が…

「謀略法廷」上・下 ジョン・グリシャム著(白石朗訳、新潮文庫:H.21.7.1)―読者を愚弄するふざけた結末!

この小説の帯裏(上巻)には、<本書はアメリカ腐敗の現状を描き切った小説>という解説の杉江松恋氏の言葉が載っている。 もっとも、アメリカの政・官・財の癒着と腐敗はつとに知られたことで目新しいことではない。遥か昔、アイゼンハワー大統領が辞任する…

「クリーピー」前川裕著(光文社、'12.2.20)後半は自分の仕掛けた理屈に自縄自縛となって,駄作になった傑作

一気に読ませる力はある。ただし、文章が、人間心理を抜かりなく丹念に表現しようとして、やや理屈っぽくなっている。いかにも大学教授の作者らしい。 ヒントにしたのは、多分<世田谷一家殺人事件>、<坂本弁護士殺人事件>といった現実の事件や、映画では…

映画「死の接吻」と「太陽に向かって走れ」を見る。 VIVA!リチャード・ウィドマーク

今回は読書からは少し横道にそれて、映画の話である。 3月に埼玉県から都内に引っ越した際、1000本近くあったビデオ(おもに映画や音楽のライブを主にNHK・BS放送などから録画したもの)をすべて処分した。引っ越し先のマンションが狭いことと、録画媒体とし…

ちょっと一服(4)「哲学者の密室」−15年前の感想のお粗末?

引っ越しの荷物整理をしているときに、古いノートブックが何冊か出てきた中に読書感想を記したものがあり、笠井潔の「哲学者の密室」の読後メモを見つけた。この本読んだ日付は平成9年11月28〜29日と記入してあり、この本がカッパ・ノベルスから出版されたの…

「闇先案内人」大沢在昌著(文藝春秋、H.13.9.15)−これもゴミか?

ギャビン・ライアルの「深夜プラス1」に似た設定。お定まりの登場人物とお定まりの展開。警察、ヤクザ、三国人、「夜逃げ屋本舗」や「トランスポーター」を思わせる職業の主人公。(もっとも、後者が日本で上映されたのは平成15年だから、この大沢作品のアイ…

「容疑者Xの献身」(東野圭吾著、文藝春秋'05.8.30)−絵空事!

世評の高いこのミステリーを読んで、先ず感じたのが、”絵空事”だ、ということであった。 東野作品では、今まで「白夜行」1冊を読んだだけであり、もともとあまり好みの作家ではなかった。 (証文の出し遅れ感を厭わず)今頃になって手に取ったのは、職場の同…

「国家の闇」−日本人と犯罪<蠢動する巨悪>一橋文哉著(角川oneテーマ21:'12.3.10) もっと凄いのは<国家が闇>!

著者の作品を初めて読んだのは、当時愛読していた「新潮45」の”かいじん21面相”についてのドキュメントであった。(1995年) 本書の著者略歴では、著者は”本名など身元に関する個人情報はすべて未公開”となっているが、既にWikipediaなどで、元サンデー毎日…

「大往生したけりゃ医療にかかわるな」中村仁一著(幻冬舎新書、’12.01.30)

この手の本にはいささか食傷気味だ。幻冬舎新書は死に関する本を随分熱心に刊行している。このブログで紹介するのも、「死にたい老人」及び「日本人の死に時」に続いて三冊目である。それでも自分が年を取ったせいか、つい手を出してしまう。 しかし、<はじ…

「フェルマーの最終定理」(サイモン・シン著、青木薫訳:新潮文庫、平成18年6月)

私のような生来数学的思考回路を辿ることを不得手としてきた人間が、果してこのような専門的な数論に取り組んだ著作を最後まで読みとおせるのか、大いなる不安を持って読み始めた。しかしそれは見事に杞憂に終わった。それどころか、ピュタゴラス、エウクレ…

「数学的にありえない」(アダム・ファウアー著、矢野誠訳:文春文庫、09.08.10)

驚いたのは、今年の1月15日に”Nature Physics”電子版に掲載されて世界中で話題になった<小澤の不等式>の実験実証の7年も前に、小説とはいえ(この小説は、アメリカで2005年に発表された)、登場人物の一人(トヴァスキー)の口を借りて、ハイゼンベル…

「日本人の死に時」(久坂部羊著:幻冬舎新書、07.1.30) 国家による建前論の制度設計が介護保険制度を危機に陥れている

医師であり作家でもある著者が、自らの臨床体験から、長寿社会を誇る日本の高齢者にとっての、あるべき終末観について平易かつ明晰に語った書。5年前の著書であるが、著者が医師として多くの老人の死を看取ってきた体験に基づく苦渋に満ちた分析と考察に、む…

「俳句観賞450番勝負」(中村裕著、文春新書、07.7.20)は、面白うてやがて悲しき・・・

一読感じたのは、俳句は言葉では掬い上げられない世界を、言葉を用いて言葉の伝達機能を飛び超えた玄妙な働きで表現したものだ、ということである。となれば、勿論俳句を論理的な解説で捉え切ることはできない。俳句の解説を読んで、いつも隔靴掻痒の感を免…

ちょっと一服(3)怪しいぞ、首都直下型大地震情報

このところ連日、週刊誌もテレビも大新聞も夕刊紙もみな首都直下型大地震の情報でてんこ盛りである。率直な感想を言えば「ほんまかいな?」である。何と、今後4年以内にマグニチュード(M)7級の地震の起きる確率が70%と言うのだ。 新潟地震も、北海道南西…

「死にたい老人」(木谷恭介、幻冬舎新書’11.9.30)を読んで、自死について考える

’11年12月4日の「死ぬ気まんまん」の中で、木谷恭介氏の断食による餓死の試みに言及したが、標記の本は木谷氏本人によるその自死決行の記録である。 読んで感じたのは、人の生への強い執着である。飽食のこの日本で餓死をした人のケースを見ると、そうした方…