2014-01-01から1年間の記事一覧

「世界を変えた10冊の本」池上 彰著(文藝春秋、'14.3.20)−「社会契約論」が抜け落ちている?

電子書籍で読んだ。一読して、池上彰の世評が高いことに納得がいった。実に要領のいい、分かりやすい解説だ。それぞれの著作と作者について、著者が十分咀嚼をしていないと、こうも明晰な本は書けないであろう。 さて問題は、10冊の本の選択にある。一応、書…

「科学は大災害を予測できるか」フロリン・ディアク著(村井章子訳、文春文庫、'12.10.10)−本書を貫くテーマはカオス現象

著者は<まえがき>で次のように述べる。 「私は、多くの力学系に起きるカオスと呼ばれる現象に興味を持っていた。カオスとは、初期状態が同じでも結果がまったくかけ離れたものになるような、非常に不安定な現象を意味する。」 カオス理論は、マサチューセ…

幾冊かの健康本とB級投資本、そして『老子』

このところブログの更新が滞っている。もう2ケ月になろうか。古希をとうに過ぎた身で、週に5〜6日をフル勤務しているので、やはり疲れが累積し、 パソコンに向かって文章を書くのは体力的・気力的にも辛い。それでも本を読むことは、他の色々な楽しみを削ぎ…

最近の読書「百舌の叫ぶ夜」逢坂剛(集英社文庫、'14.4.14)そして「幻の翼」などなど・・・そしてこの頃の所感

TBSテレビの「MOZU」が実に面白く、十数年前に読んだ逢坂剛の原作を捜したが、引っ越しを重ねるうちに行方が分からなくなってしまったので、あらためて改訂新版を買い求めて読んだ。それも一気に読んだ。鬼気迫る日本版ハードボイルド小説は、再読しても面白…

「米中対決ー見えない戦争」ドルー・チャップマン(奥村章子訳、ハヤカワ文庫、'14.4.25)―劇画?

ふと立ち寄った小さな書店で、パラパラめくって面白そうなので買って読んでみた。 この作品は、フレデリック・フォーサイスやトム・クランシーの系譜に連なる作品である。ここに「ゴルゴ13」も含めてもいいかもしれない。 現今の世界情勢で思いつきそうな事…

「あなたに似た人 新訳版1」田口俊樹訳(ハヤカワ文庫、'13.5.10)―芳醇なる味わい

以前、田村隆一の訳で読んだ記憶があるが、とりわけ印象に残っているのは何といっても<南から来た男>である。(ロアルド・ダールの他の作品では、『キス・キス』の中の、ヒトラーの生誕を扱った<誕生と破局>も強烈な印象が残っている。) あらためてじっ…

「経済学の犯罪」佐伯啓思著(講談社現代新書、'12.8.20)−「セイの法則」について考える

本書を通底している著者の一貫した態度は、資産バブル崩壊後、デフレに陥っていた日本でとられた、本来インフレ対策であるはずの「新自由主義政策」(小泉構造改革など)への徹底した批判、嫌悪である。 著者の考え方は、本書でも引用されているように、カー…

「改訂版 小林秀雄の哲学」高橋昌一郎(朝日新書、'13.9.30)―宮本武蔵の”器用という事”について

本書は7章に分かれ、各章のはじめに、テーマ別に小林秀雄の著書から文章を原文で引用し、テーマにからめて自在に語るという体裁をとっている。 これは面白いと思った箇所を一つ挙げると、第四章”戦争と無常『私の人生観』”の宮本武蔵『五輪書』の”道の器用”…

「確率論と私」伊藤清著(岩波書店、'10.9.14)―

前に述べたように、藤原敬之の著書で、伊藤清教授の存在を教えて貰った。このような偉大な学者を今まで知らなかったことを恥じるしかない。数学者で知っている名前は、高木貞冶、岡潔、彌永昌吉、小平邦彦、遠山啓、吉田洋一、矢野健太郎の各氏くらいであっ…

「3日食べなきゃ、7割治る!」船瀬俊介(三五館、'14.1.6)―空腹の薦め、食うな・動くな・寝てろ、は正しいか?

とりわけ目新しいことが書いてある訳ではない。「ファスティング(断食)こそ万病を治す妙法である」という(著者の言う)ヨガの教えが基本となっている。世に多くある少食の薦めの一つであり、免疫機能が高まる結果身体の不調が7割治る、というのだ。 本書…

「日本人はなぜ株で損をするのか?」藤原敬之著(文春新書、'11.12.20)―株で儲けるためではなく、投資というものの本質について考える本だ

本書を読むに際しては、ナシーム・ニコラス・タレブの『まぐれ』(ダイヤモンド社)に次のように書かれているのを心に留めておきたい。 「運を実力と取り違える傾向がとても強い―そのうえ如実に表れている―世界が一つある。それは市場の世界だ。」 そして、…

「「量子論」を楽しむ本」佐藤勝彦監修(PHP文庫、'00.4.17)―よく分らないが、知的興奮を誘う

本書の紹介によれば、監修者の佐藤勝彦教授は(本書の執筆当時)東大教授にして宇宙論研究を世界的にリードする存在。コペンハーゲンのニールス・ボーア研究所で客員教授を務めた経験を持つ。従来より、一般読者向けに最新物理学の啓蒙的な書物を書くことに…

久生十蘭「顎十郎捕物帳」を電子書籍(青空文庫)で読む

この作品は過去に、創元推理文庫の「日本探偵小説全集8」で2回読んだ。それからしばらく経つが、ふと思い立って、今回は手に入れたばかりのiPad mini(リテーナ・ディスプレイ)に青空文庫リーダーをダウンロードして読み始めたが、面白さのあまり一気呵成に…

「異邦人」アルベール・カミュ、窪田啓作訳(新潮文庫、S.29.9.30)

この著名な作品を初めて読んだのは、多分大学生のころであったろう。それ以来手にしたのは実に久しぶりのことだ。主人公のムルソーが殺人の動機を「太陽のせいだ」と言ったところ以外、細部は殆ど忘れている。 先ず一読した率直な感想は、ここに描かれたムル…

「Kindle新・読書術」武井一巳(翔詠社)と「蔵書の苦しみ」岡崎武志(光文社新書)をKindleで読む―本を大量処分する極意

iPad miniの電子書籍アプリKindleで『「Kindle新・読書術 すべての本好きに捧げる本』(武井一巳)を読んだ。 Associeの「必読本大全」('14.1.15発行)で武井は<今すぐ始めたい 電子書籍ライフ>という一文を書いているが、その中の「電子書籍の未来に希望…