2013-11-01から1ヶ月間の記事一覧

「変身の恐怖」 パトリシア・ハイスミス 吉田健一=訳(ちくま文庫、'97.12.4)―彼女の最高傑作?

この小説を充実感をもって読み終えたが、それにしてもタイトルの「変身の恐怖」という訳語はピンとこない。元のタイトルは"THE TREMOR OF FORGERY"である。TREMORは「恐怖や興奮による震え」、FORGERYは「偽物、偽造行為」という意味である。 これは先ず、主…

「見知らぬ乗客」パトリシア・ハイスミス 青田勝=訳(角川文庫、H10.9.25)―これはま紛う方なき現代の”罪と罰”だ

パトリシア・ハイスミスは、前回『11の物語』を取り上げたが、続いて最初の長編である本書を読み、再び唸ってしまった。解説(新保博久)によれば、1950年、29歳の時にニューヨークのハーパー社から刊行されたとあるが、ハイスミス怖るべしである。交換殺…

「11の物語」パトリシア・ハイスミス 小倉多加志=訳(ハヤカワ・ミステリア・プレス文庫、'97.10.31)―まさしく”不安の研究”(グレアム・グリーン)そのもの

一読して感嘆した。人間の本性に対する洞察力の鋭さ、深さに脱帽。何もなければごく安定してみえる人間のこころ(精神)の何という頼りなさ、脆さ、そして危うさ! この11編の作品に描かれているのは、日常生活や人の理性のぽっかり空いた裂け目から頭をもた…