kobo Touch電子ブックリーダーで、「最強マフィアの仕事術」(マイケル・フランゼーゼ)、と「経営分析のリアル・ノウハウ」(冨山和彦)を読んでみた。

 楽天から、電子ブックリーダーkobo touchが無料で送られてきた。iPhone青空文庫などを読んだことはあるが、さすがに6インチタッチスクリーンは合理的なサイズで読みやすい。
 早速、青空文庫からは、『草枕』、『吾輩は猫である』、『ドグラ・マグラ』、『鮨』(岡本かの子)、『親友交歓』(太宰治)とダウンロードし、今度はkoboのイーブック・ストアから、以前書店で見て関心のあった『最強マフィアの仕事術』と、koboのブック・リストから興味をひかれた『経営分析のリアル・ノウハウ』(冨山和彦)を購入した。

『最強マフィアの仕事術』は批評するに値しない愚にもつかない本だ。恐らく、よくは分からないが、この著者のこわもての過去(マフィアの幹部)という経歴をセールスポイントに、ゴーストライターが書いたものだろう。一種の自己啓発本だが、内容は陳腐である。売りは、マフィア時代の経験からこんな教訓が引き出せるし、それは一般のビジネス社会でも通用する普遍的な原則を含んでいるよ、というたぐいのものである。また、もう一つの工夫は、マキャベリとソロモンの言葉をつないでお説教を垂れる構成であるが、一体元マフィアの幹部から道徳遵守の必要を説かれて感心する者がいるだろうか。このゴーストライターも大した腕ではない
 それでも前半の著者の人生の歩みの部分は、まあ何とか興味をつないで読んだが、後半はいけない。だらだらとしたつまらぬ情報で筆をつないでページを稼ぐたぐいの遣り口がありありと見える。 
 まあ、一口で言って、時間とカネの無駄であった。

『経営分析のリアル・ノウハウ』は、”はじめに”にあるように、冨山和彦を含む経営共創基盤(IGPI)の三人執筆になるものである。すべてが冨山の手になるものではないことを頭に入れておこう。
 冨山は、ご存知のとおり産業再生機構のトップを努めた人物で、その後JALの再建にも腕をふるった、経営コンサルタントとしては日本でも有数の実戦経験を有し、一定の成果を上げてきた人物である。
 電子ブックリーダーで一気に読了したが、紙の本と違って、ページを戻して部分的に再確認することが困難であり、また線引き、書き込み、付箋貼りつけができず、こうした実務的な本では、電子ブックは優位性に欠ける。畢竟、重要な部分はノートに写し取ることになるが、そうなると寝ころんで読むという訳にもいかない。
 小説のように読み流す(失礼)というやり方で済む書物ならば問題はないのだが。

 内容は筆者たちの経験を踏まえた実務的なもので、経営を見る視点を一通り押さえて書いてある。経営分析に関する珠玉のようなヒントも随所にちりばめられていて、知識の再確認には適当である。ただし本書は、経営分析の心構え集ないしは啓発本のようなざっくりしたもので、新書版では望むべくもないが、もっと踏み込んだ、読者の思考力の限界に迫る凄みはなく、やや拍子抜けするような感じを抱きながら読み終えた。
 ごく初歩的な財務三表などのお勉強解説と、かなり高度な洞察力を感じさせる部分が混在している。後者は冨山氏自身の執筆で、お勉強の部分は他の共同執筆者の手になるものであろうと推察できる。

 本書の中では、スイッチングコストという考え方、例えばスイッチングコストを利用して顧客を囲い込む(例、ファナック)などという部分は面白かった。
 解説によれば、スイッチングコストとは、現在利用している商品やサービスから、他の商品に乗り換えるときに、利用者が追加的に支払う負担(経済的負担のみならず心理的負担も)、ということで、これが上手くいけば局所的に独占に近い状況を生みだすことができるという。高収益企業は規模の利益が利いている場合よりもスイッチングコストを高め、独占または寡占な的状況つくることに成功している場合の方が多いし、それが事実上顧客から選択肢を奪うことになるという。

 あと、参考になったのは次のようなところだ。分かっているようで、あらためて指摘されると、成程そうかと思ってしまう。それが本読む効用である。
(1)PLの費目の中にどんな背景が隠されているかを読みとる。
(2)PLとBSを連動させる。さまざまなトランザクション(一連の取引行為)の、あるものはPLに行き、あるものはBSに行く。それは解釈の幅があるからだ。
(3)企業は経済的に帳尻が合っている構造になっているかを知ること。(経済的に帳尻が合わないことをしていれば、いつかは潰れてしまう。)
(4)価格や売上は、他社との競争や顧客のふところ具合に左右される。即ち、相手のいる話だが、コストはひとまず自分でコントロールできる問題だ。
  儲けの仕組みの理解、経済原則、特にコストを支配する法則が何かを必ず押さえること。
(5)組織が大きくなったり、商品数、顧客数、拠点数が増えると、調整コストが余計にかかり、ほとんどの場合「規模の不経済」が働く。→費用逓増の法則
(6)経済の本質のひとつは、人間の心理である。人間音痴では、正しい経営分析はできない。