「米中対決ー見えない戦争」ドルー・チャップマン(奥村章子訳、ハヤカワ文庫、'14.4.25)―劇画?

ふと立ち寄った小さな書店で、パラパラめくって面白そうなので買って読んでみた。
 この作品は、フレデリック・フォーサイストム・クランシーの系譜に連なる作品である。ここに「ゴルゴ13」も含めてもいいかもしれない。
 現今の世界情勢で思いつきそうな事件の羅列で作った、いかにもありそうなストーリーである。しかし、事件の真相の掘り下げや人物の複雑な性格描写はなく、筆者の考える小説の範疇には入らないが、ライト・ノベルあるいは映画の台本と思えばそれなりに読ませる。事実、ストーリーの展開に引きずられて、分厚い本(571頁もある)だが一気に読み終えた。


 国家がハッカーを使って電力施設などへのサイバー攻撃を行う、グーグルという巨大な検索エンジンGPSシステムをダウンさせる、また金盾という中国が構築しているインターネット検閲システム(グレート・ファイアーウォール)を無効にさせる、中国が保有する米国国債をひそかに大量に売却する、webサイトにニセ情報を流して相手国を混乱させる、こういった本作品にでてくる様々な手法は、みなどこかで聞いたような話であり、オリジナリティという点ではやや首を傾げる。
 また、北朝鮮に旅客機を緊急着陸させた意図も不明のままだし、メッテルニヒという謎の人物が何を目的に、誰のために動いているのか遂に分らないままで不全感が残った。


 これ以上コメントするのは無駄で、特におすすめという作品ではない。それにしても、帯に書かれたコピー「現代の武器なき戦争を描く衝撃の巨編」とはいかにも凄い。