2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

「観念的生活」中島義道著(文春文庫、11.5.10)に見る観念的死生観の虚実

中島義道先生のこの本で興味があるのは、飯の種である哲学論議そのものはなく、各章の本論への序奏になっている、あるいは一種の箸休めになっている著者の哲学的(?)私生活や、その折々に呟くようにこぼれ出てくる老年の感懐と死生観である。(以下、敬愛…

「レッド」今野敏(ハルキ文庫、オリジナルの単行本は1998年刊)は、福島原発事故の預言の書か?

内田樹によれば「いくつか例外はあるが、全体として文学作品は売れていない。なぜか。身も蓋もない言い方をすれば、それは提供されている作品のクオリティが低いからである」(中央公論11月号「地球最後の日に読んでも面白いのが文学」) さて、作家今野敏は…

「年収100万円の豊かな節約生活術」山崎寿人(文藝春秋、11.6.25)を読んで、伯夷・叔斉の生きざまを想う。

この本の売りは、題名のとおりの極度の節約生活と、その著者の華麗な経歴との落差にある。この落差がある種の読者にとって精神安定剤的な働きをすることになることは、容易に推測できる。編集者の狙いもその辺あったろう。老若男女を問わず就職難にあえぐ今…

「グローバル恐慌」浜矩子著(岩波新書、09.1.20)― 読むのが遅きに失したか?

この本は刊行が09年1月、本書の「おわりに」の日付は08年12月で、まさにリーマン・ショックが起きた08年9月15日からまだ間もない時期に書かれている。強靭な思索力に加えて快刀乱麻を断つごとく難題を次々と裁く手綱も鮮やかな、読んでいてまことに痛快な本…

わが愛読書(2)「斎藤茂吉歌集」(岩波文庫、S50.6.20)―茂吉の没年と同じ年齢となった今、「白き山」が心に沁み入る 

1昨年8月の約1ケ月の入院のとき、昨年9〜10月の10日ほどのドイツとチェコの旅行のとき、いずれも手元には必ず岩波文庫の「斎藤茂吉歌集」があった。もうすっかり古びて、頁も焼けて紙の縁が黄ばんでしまっているが、愛着があって買い替えることができないで…

「世界恐慌の足音が聞こえる」榊原英資著(中央公論新社、11.9.25)―さて、どんな足音が聞こえるか?

著者は、10月4日号の<日刊ゲンダイ>で、ポール・クルーグマンの「1870年型の大不況が始まった」という言葉を引用し、当時の背景に、物価の下落、産業構造の変革、英国の衰退と米国の勃興があったとして、今の状況との類似を指摘する。勿論、今の状況の背景…

「世界恐慌の足音が聞こえる」(榊原英資著)を携え、石巻へ向かう

10月4日の夜、家内とともに11時30分の夜行高速バスで仙台へ向かい、翌5日の朝6時に仙台駅に着く。9時に、大学入学以来の親友であるKさんが迎えに来て、石巻の大震災の被災現場を案内してくれる。Kさんは長年石巻で仕事に就いていたため、この地域の事は詳し…

タイラー・コーエン著「大停滞」は話題となっているが、その土台部分はフィクションである

「大停滞」(NTT出版、11.9.28)は、大停滞しているわが頭脳を久々に活性化さてくれた本であった。 大変話題になった問題作であるが評価の難しい本で、読んでいて、まるで巧妙な手品師に翻弄されている思いがした。 著者の言いたいことは、短い<日本語版へ…

映画「インサイド・ジョブ」 リーマン・ショックを頂点とする世界金融危機の主な原因は、ウォール街強欲詐欺集団の宴のあとか、それとも”大停滞”(タイラー・コーエン)のせいか?

「インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実」は、銀行業務と証券業務の明確な分離を定めたグラス・スティーガル法を撤廃するなどレーガン政権以降進められてきた規制緩和の下、合併を重ね巨大化した金融機関が中心となり、いかがわしい金融工学とデリバ…