2012-06-01から1ヶ月間の記事一覧

「狂人日記」色川武大著(講談社文芸文庫:'04'9.10)―襟を正して読む

この作品の主人公がまとっている狂気の正体は一体何であろう。著者にダブらせて<ナルコレプシー>と言いたいところだが、これは違うだろう。主人公が見る幻覚は、この病気特有の入眠時幻覚などという生やさしいものではない。 また、この小説で唯一、医師の…

「怪しい来客簿」色川武大著(文春文庫'89.10.10)―行間にうごめく存在の不気味

手元に2冊の文庫版「怪しい来客簿」がある。一つは角川文庫版で、昭和54年5月30日再版(写真左)である。もう一つは文春文庫、1996年(平成8年)7月30日第5刷(写真右)である。解説はともに長部日出雄氏だが、後者には色川氏が亡くなった後に書かれた付記が…

「謀略法廷」上・下 ジョン・グリシャム著(白石朗訳、新潮文庫:H.21.7.1)―読者を愚弄するふざけた結末!

この小説の帯裏(上巻)には、<本書はアメリカ腐敗の現状を描き切った小説>という解説の杉江松恋氏の言葉が載っている。 もっとも、アメリカの政・官・財の癒着と腐敗はつとに知られたことで目新しいことではない。遥か昔、アイゼンハワー大統領が辞任する…