「本は10冊同時に読め!」成毛眞著(三笠書房)―本を読んでもサルになるかも・・・

要は昔からある読書のすすめ、といったたぐいの自己啓発本で、中身は薄い。自分の体験を無批判に披歴して読者に読書の効用を説く。サブタイトルは<本を読まない人はサルである>という噴飯もの。まあ、あまり真剣に論評するほどの本でもないだろう。 しかし…

「皇帝のかぎ煙草入れ」ジョン・ディクスン・カー、駒井雅子訳(創元推理文庫、’12.5.20)

前回偉そうなことを述べたにもかかわらず、またカーの作品を取り上げることになってしまった。 というより、何気なく買い置きしておいたこの作品の新訳を手に取ったのが、つい面白さのあまり、一挙に読み終えてしまったというのが事実だ。前回読んだ「曲がっ…

「曲がった蝶番」ジョン・ディクスン・カー、三角和代訳(創元推理文庫、'12.12.21)―ストーリーテラーの面目躍如、だが・・・・

久しぶりに本格ミステリの代表的作品を読んでみた。本格ミステリは大学時代以来ほとんど読んでいない。その頃はヴァン・ダインが一番の贔屓作家で、ウィルキー・コリンズ、クロフツ、フィルポッツ、ルルー、ベントリー、クイーン、クリスティなども一通り読…

「ナイン・テイラーズ」ドロシー・L・セイヤーズ(浅羽莢子訳:創元推理文庫、'98.2.27)−浅羽莢子と平井呈一の訳で読んでみる・・・ついでにレ・ファニュの「緑茶」についても

ずーっと本棚の隅で眠っていた名のみ有名なこの作品(創元推理文庫、浅羽莢子訳)を読み始めたが、この翻訳には難渋した。訳文に正確を期そうと、英語の構文に忠実に訳したような感じがある。そのためか、表現が回りくどくてイメージが掴みにくく、読んでい…

「沈黙者」折原一(文春文庫、'04.11.10)と「田舎教師」田山花袋(新潮文庫)−埼玉県北(東)部について語ろう

「沈黙者」は、書店で佐野洋氏の解説を拾い読みして購入したが、一気に読みとおすような強い魅力は感じなかった。ただ筆力は、先に読んだ綾辻行人を上回るように思える。なにしろ、読んでいて文章に躓くことが少なかったから。 叙述ミステリとはいえ、まあ、…

「うずまき」伊藤潤二著(ビッグコミックスペシャル:小学館、'10.9.4)−それは、集合的無意識の悪意か?

このコミックを知ったのは、佐藤優著『功利主義者の読書術』(新潮社、'09.7.25)によってであった。この本で佐藤優は、最初の章<資本主義とは何か>で、マルクス『資本論』の次にこの『うずまき』を置いている。この章には他に、綿矢りさの『夢を与えるも…

叙述ミステリを読む(2)−「十角館の殺人」

綾辻行人の「十角館の殺人」。アマゾンのカスタマー・レビューで多くの人々が絶賛していることもあって、あまり辛口の批評めいたことを言うのは野暮なのかも知れない。人々に何がしか楽しみを提供することはエンターテインメントの大切な役目で、それはそれ…

叙述ミステリを読む−「模倣の殺意」「殺戮にいたる病」「ロートレック荘」

本屋で平積みされていた中町信の「模倣の殺意」を手にとって、何となく購入し、帰宅して早速読み始め、一気に読了した。 解説で濱中利信は、この作品の発行年である1972年という日付に着目し、「本書はこのパターンの叙述トリックを用いた初の国内ミステリ」…

「『 余命3カ月』のウソ」近藤 誠(ベスト新書、'13.4.20)−医療は人を恫喝することで成り立つ (付記)精神科医療について

私は10年以上を病院に勤務し、日々医師や患者さんなどと接している立場の人間である。ただ私は、医師でもその他の医療従事者でもなく、単なる事務職であるが、それなりに責任を負う立場にいるので、役所、業界団体、医師、製薬会社などへの接触も日頃極めて…

知性の限界」高橋昌一郎著(講談社現代新書、'10.4.20)その(2)−帰納法の否定の元祖はデイヴィッド・ヒュームだ

第2章「予測の限界」のメインテーマは、科学哲学者カール・R・ポパーの<帰納法の否定>と<反証主義>となるのだろう。 カール・R・ポパーは主著である『科学的発展の論理』(恒星社厚生閣、'71.7.25)において、冒頭から帰納の問題を取り上げ、経験科学の…

「死ぬことと見つけたり」上下、隆慶一郎(新潮文庫)−伝奇小説の系譜

書棚にあった本書を、何気なしに手にとって読み始めた。読むのはこれで3回目になる。細部の記憶は薄れていたが、読み始めると物語の状景が呼びさまされるとともに、あらためてその面白さに引きこまれ、一気に読了した。隆慶一郎は、山本周五郎、司馬遼太郎、…

「知性の限界」高橋昌一郎著(講談社現代新書、'10.4.20)その(1)ーそうか、ポストモダニズム系学者の知的詐欺が分かった!

実に楽しい読み物だ。 同じ著者の『理性の限界』(講談社現代新書)は以前買い求めて持っていたが、昨年の引っ越しの際に行方が分からなくなり、いずれどこからか出てくるだろうからと、先ず図書館でこの本を借りて読み始めたが、あまりの面白さに一気に読了…

「入門!論理学」野矢茂樹著(中公新書、'06.9.25)−言葉の使用法の逸脱を退ける厳密さを学ぶ

記号を一切使わずに、論理学の入門書を書くなどは、相当の離れ業と言っていいだろう。ウィトゲンシュタインでお馴染みの野矢茂樹の、他に類を見ない力技であり、恐れ入ると言うしかない。 本書は「入門!・・」とうたっているが、実に手ごわい入門書であり、…

「永遠の吉本隆明」橋爪大三郎著(洋泉社、'03.11.21)−吉本隆明は、高踏的な知的ディレッタントだ

前回に引き続いて、吉本隆明についてもう少し述べる。 ところで、橋爪大三郎の『永遠の吉本隆明』を読んで悲しくなった。橋爪ともあろう碩学が、しどろもどろで吉本の弁護に終始している。橋爪は吉本より二回り(24歳)若く、ちょうど学生時代に吉本現象に遭…

『吉本隆明という「共同幻想」』呉智英著(筑摩書房、'12.12.10)― アンチテーゼと虚仮威しの詩人、吉本隆明

呉智英は、この書の序章で、鹿島茂の著書から次のような引用を行っている。 「吉本隆明の偉さというのは、ある一つの世代、具体的にいうと1960年から1970年までに青春を送った世代でないと実感できないということだよ。」 この期間は、私自身にとって大学2年…

「ソシュールと言語学 コトバはなぜ通じるのか」町田健著(講談社現代新書、'04.12.20)−ほどよく役に立つ

この本を手に取ったきっかけというのは、小浜逸郎の「日本の七大思想家」(幻冬舎新書)に大いに啓発されるというかそそのかされて、時枝誠記の「国語学原論」(岩波文庫上下2巻)を読んでみようと思い立ち、早速アマゾンで取り寄せてみたものの、ソシュール…

ちょっと一服(5)昨年の大晦日の<紅白歌合戦>で、美輪明宏の”よいとまけの唄”を聴いて感激、’60年代の「銀巴里」を想う

昨年の紅白歌合戦で、美輪明宏が”よいとまけの唄”を歌うというので、普段見ることのないNHKにチャンネルを合わせた。 美輪は、いつもの女装コスチュームではなく、キリット締まった、往年の「シスターボーイ」を彷彿とさせる黒髪で黒ずくめの颯爽としたいで…

「頼れない国でどう生きようか」加藤嘉一、古市憲寿著(PHP新書、'12.11.1)−絶句!頼れない国で生きる頼れない若者たち

戦後68年も経つとこのような若者が輩出されてくるのかと、思わず嘆息してしまう。 要するに彼らが語るのは、国際化した現代社会における自己保身の方法論に尽きる。ここにあるのは、それと自覚しないままに垂れ流す自慢話と、彼らのどうでもいい私生活である…

「64」横山秀夫著(文芸春秋、'12.10.25)―周到!

横山秀夫は『半落ち』でのヒューマニズムに傾きすぎたエンディングがどうも肌に合わず、私の中で評価が揺らぎ、私が勝手にランク付けをしていた現役ミステリー系の書き手のトップ3(スリー)の地位を滑り落ちた。 ちなみにトップの3人は、池井戸潤、貴志祐…

「ホフマンスタールとその時代」ヘルマン・ブロッホ著(菊盛英夫訳:筑摩叢書、'71.5.25)−世紀末ウィーンへの憧れ(1)

世紀末ウィーンとは何と甘美な響きであろう。ウィーンで生まれたこの時代に開花した豊穣で爛熟した文化のアウトプット(知的生産物)の数々は、人類に計り知れない貢献をしている。いったいどんな時代であったのだろう。 そもそも、世紀末とはいつからいつま…

「このムダな努力をやめなさい」成毛 眞著(三笠書房、'12.10.)−論理破綻した無思慮な本、並み居るお気軽本のひとつ!

著者紹介欄で、86年から2000年まで14年間「マイクロソフト社」に勤務をし、そのうち91年からは社長を勤めたとある。 良くも悪くもこの勤務経験が、著者の物の考え方を陰に陽に支配しているに違いないと想像できる。 同じ著者紹介欄には、ビジネス界きっての…

kobo Touch電子ブックリーダーで、「最強マフィアの仕事術」(マイケル・フランゼーゼ)、と「経営分析のリアル・ノウハウ」(冨山和彦)を読んでみた。

楽天から、電子ブックリーダーkobo touchが無料で送られてきた。iPhoneで青空文庫などを読んだことはあるが、さすがに6インチタッチスクリーンは合理的なサイズで読みやすい。 早速、青空文庫からは、『草枕』、『吾輩は猫である』、『ドグラ・マグラ』、『…

「氷川清話」江藤淳・松浦玲 編(講談社学術文庫、'10.4.20)−劣化した日本人の政治家たちよ、今まさに勝海舟の声を聞くべし!

『氷川清話』には、手軽に手に入るものとして、江藤淳・松浦玲編集の講談社学術文庫版(左)と、吉本襄の流布本を底本にした勝部真長編の角川ソフィア文庫版(右)がある。 前者の編者の一人松浦玲は、解題において、最初に『氷川清話』を編集した吉本襄を口…

「組織戦略の考え方」沼上幹(ちくま新書、'03.6.10)をもとに病院の組織運営について整理してみた

このところ、しばらくブログを更新できないでいたが、実は、わが職場の組織運営について、標記の沼上幹氏の本を読みながら考え、レポートに整理する作業に集中していたためである。体裁は読書ノートで、ハーバート・A・サイモンや柳井正氏、その他多くの本を…

松山へ飛び道後温泉本館で湯に浸り、そして『仰臥漫録』(正岡子規)を読む

9月12日、羽田発14時15分発の全日空機で松山へ飛ぶ。 目的は、13、14日に開催される私の勤務する職場団体の「学術研修会」参加のためである。久しぶりによく晴れた涼しささえ感じる穏やかな日で、申し分ない快適なフライトであった。しかし松山に到着し、ブ…

「笛吹川」深沢七郎著(中央公論社)を抱いて石和温泉へ

9月5日(水)、職場に休暇を貰って、ドイツから帰国中の娘と家内と一緒に山梨へ遊びに行った。まず富士霊園で家内の父親の墓参を済ませた後、甲府盆地方面へ向かい、石和温泉の某旅館へ投宿する。甲府盆地には、この石和温泉のある笛吹市を初め、県庁所在地…

『日本人は知らない「地震予知」の正体』ロバート・ゲラー著(双葉社:'11.8.31)−<南海トラフ巨大地震被害想定>は、官学挙げての免罪符売りか、予算獲得のための実績誇示か?

国の二つの有識者会議(*)がマグニチュード9級の「南海トラフ巨大地震」の被害想定を発表した。気を付けたいのは、<被害想定>であって、<地震予知>ではないことだ。大袈裟にいえば、1年先か、もしかして千年先か分からぬ大地震の被害想定なのである。…

時代小説の楽しみ(1) 霊験お初捕物控「震える岩」宮部みゆき(講談社文庫、'97.9.15)−主人公お初の”凛々しい健気さ”が心を打つ

子供の頃から時代小説の虜になって今に至っている。小学校に上がるかどうかの頃、戦時中から戦後しばらくにかけて、本職の表具師の仕事が無くなった父親が臨時に就いた仕事が、県立図書館の児童部門の職員であった。多分親しくしていた県議の紹介ででもあっ…

「古典への道」より<中国古典をいかに読むか>新訂 中国古典選 別巻(朝日新聞社:S.44.04.15)

百目鬼三郎氏の「読書人読むべし」(新潮社)は、前にも書いたように、私の最も信頼するブックガイドであるが、中でも<中国の古典(1)>の章は、他に例を見ない優れた四書五経などの案内として繰り返し読んでいる。 その中で著者は、吉川幸次郎氏の「古典…

「陋巷に在り」(1)〜(5) (酒見賢一著(H.8.4.1 新潮文庫)―謎の孔子像に迫ろうという奇想天外の物語だが、孔子にも迫れず、そもそも長すぎる

安冨歩の「生きるための論語」(ちくま新書:'12.4.10)を読んでいて、ふと酒見賢一の「陋巷に在り」を思い出した。かなり以前に読んだ記憶がある。ただ、最初は非常に面白かったのだが、読み進むうち、次第にオカルト的な側面に辟易して第7巻で読むのを止め…