「Newsweek」(9・28)と「エコノミスト」(9/27)から読みとれるギリシャのデフォルトとユーロ分裂の危機

「情報が多ければ多いほど、頭でネガティブなことを考えてしまう」とは、帰国中の高城剛氏が9月18日のトークイベントで語った言葉だそうだが、「欧州金融危機」に対する両誌の執筆者たちの論調が極めてペシミスティックなのは、彼らが最新の情報を過剰に持ち過ぎているせいであろうか?

 それはともかく、各論文の中では、「Newsweek」に掲載された英タイムズ紙編集委員ローズマリー・ライターのギリシャ発、ユーロの悲劇>という巻頭論文が、簡潔にして緊迫感あふれる迫真の分析で強い説得力を持っている。この重要な論文の要点を少し紹介してみたい。こうした謀略臭芬々(ふんぷん)たる複雑怪奇な国際情勢分析にかけては、イギリス人の右に出る者はないであろう。

 まず冒頭でギリシャ危機について、幻想を持ち続けるのをやめるべきときがきた」と宣明し、更に世界の5つの中央銀行ギリシャ国債を大量に抱えるヨーロッパの金融機関に年末まで上限なしでドルの供給方針を打ち出したことを紹介、それと対照的なユーロ圏の政治指導者の能天気振りを揶揄したのに続けて「この1年半、ヨーロッパの政治指導者が非現実的なフィクションにしがみ続けたせいで、ヨーロッパの納税者の莫大な金が無駄になった。もっと早い段階で債務償却に踏み切った方が危機の拡大を防ぐ上で有効だったろうし、税金も無駄にならなかったはずだ」と言い切っている。ここで“見切り千両”という日本の相場用語(上杉鷹山の教えとも言われる)が世界的に通用することが分かる。

 さらに、ギリシャ問題でヨーロッパの政治指導者が現実と向き合う勇気を示せず、煮え切らない態度を取り続けている現状を見て、金融市場もかれらがイタリアやスペインに財政の健全化を強く迫る事はできないと受け止めた、と述べる。

 またドイツにおいて第2弾のギリシャ救済策を議会が同意するかどうか不透明と述べた上で「救済策がどうなろうと、もはや関係ない。勝負は既についている」と断言し、「ギリシャがデフォルトに陥ることは間違いない。分かっていないのは、具体的なデフォルトの条件と、損害の規模とその拡大を限定する手だてだ」と続ける。例えば、デフォルト後のギリシャの債務免除の決定次第では、ECB(欧州中央銀行)やフランス、ドイツ、ベルギーの大手金融機関が大きな負担を被り、またクレジット・デフォルト・スワップCDS)を保有する英米の投資家にも影響が及ぶと分析する。

 ギリシャ破綻後の対応策を様々述べた上「最大のリスク要因は政治だ」と結論づける。総じて筆者のEU各国の政治指導者への評価は厳しく、ほとんど無能呼ばわりをしている。一瞬、ギリシャと同じく巨額の財政赤字を抱える日本の政治が二重写しとなり、日本もギリシャと同じ運命を辿るのかという思いがふと頭をよぎる。

 最後にユーロ解体についても筆が及ぶ。「いま世界経済が不安定な状態にあるなかでユーロを解体すれば、大きな危険を伴う」としながらも、「しかし、長い目で見た場合に、ユーロの解体が悪材料かどうかは別問題だ」と言う。そして「ユーロ圏の混乱は、世界にとって不快な頭痛の種だ。だが、この頭痛が死を招くと悲観するのは大げさ過ぎる」と述べて筆を擱いている。

 なお前段で十九世紀の「ラテン貨幣同盟」が崩壊した事情を述べた後に「別に世界の終りは訪れなかった」と締めくくった言葉に筆者の真意が伺われて印象的であった。

Newsweek」誌の<欧州から始まる崩壊スパイラル>(ベルリン支局長:シュテファン・タイル)でも「だからユーロ圏の分裂を含め、あらゆるシナリオがありうる」などと現状をレポートしているが、そのリポート自体がヨーロッパの状況の混乱ぶりをなぞっていて、論述もそれに合わせて錯綜している。
 
 もうひとつ、<ユーロが抱える構造的欠陥>(本誌記者:藤田岳人)では、ヨーロッパ諸国が08年のリーマンショックで深い痛手を負い、巨額の財政支出により経営危機に陥った銀行救済や国内経済の活性化のための公共事業支出などで一層の財政事情を悪化させている現状が述べられている。

 そして最後にアメリカの著名投資家ジョージ・ソロスは今月初め、ヨーロッパの債務問題は『リーマンショックより遥かに深刻な問題になるかもしれない』と世界に向けて警告した」と述べる。


エコノミスト」の内容について詳しく紹介する余地がなくなったが、それぞれの論文の肝(キモ)の部分だけを記してみる。

 まず<爆発前夜の欧州金融危機 世界経済を大収縮に追い込む>(編集部:濱條元保)
ギリシャ・デフォルトの現実味
・欧州の金融危機は「リーマンショック前夜の水準」
ソブリン危機下で金融再生の苛酷
・欧州発デフレ政策と信用収縮の恐れ

<財政危機と金融危機の同時進行 新型危機が世界を襲う>JPモルガン証券チーフエコノミスト菅野雅明
・建国235年、あらゆる内外の紛争や経済危機を克服してきた米政府・金融当局に対して、米国民が初めて限界を感じた可能性もある。
・今回の欧州危機は、従来の金融危機とは異なり、財政危機と金融危機が同時進行するリスクだ。
・今回の欧州発危機は深刻だ、先進国の財政がどこも傷んでいる。

<危機拡大阻止に奔走する当局 だがすべて後手に回っている>ニッセイ基礎研究所主任研究員:伊藤さゆり)
・9月9日には(イタリア、スペインの国際買い入れの)反対派と見られるドイツ出身のシュタルク専務理事が任期を待たずに退任する意向を表明、政策理事会内での対立を象徴するものとして市場に激震が走った。
・「ユーロ崩壊」を意識せざる得なくなっている市場心理を反転させる解決策として期待されるのは、ユーロ共同債の導入とEFSF(欧州金融安定基金)の規模拡大だが、しかし、どちらも実現は容易ではない。

 驚いたのは、<欧州の債務危機は ユーロ圏の財政統合で回避か>で開陳するBNPバリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏の見方である。「ユーロ崩壊」の確率は低く、むしろユーロ圏の財政統合を促す可能性があるとし、その理由には、下記のようにドイツの隠された動機があるとする。
「自分の国よりもファンダメンタルズの良くない国々が通貨同盟に参加していることで、大幅な通貨高を回避する―これがドイツの隠された通貨戦略だと私は見ている」
 このような特異な見方もあるのかと思わず感心したが、一方でやや陰謀史観めいた印象も受ける。
 さて、ユーロが果して崩壊するのか、財政統合で崩壊が回避できるのか、今もってその辺は全く予測が立たない。

 以上の様々な論文で一致しているのは、ヨーロッパ諸国の財政や金融機関に未だに傷跡を残す「リーマンショック」による深刻なダメージである。では「リーマンショック」とは一体何だったのか?単に一投資銀行の破綻だったのか。最近、それを手っ取り早く振り返るのに格好のドキュメンタリー映画が制作された。
インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実」がそれである。本稿ももう随分長くなってしまったので、これについては次回に譲る。