ちょっと一服(2)ユーロ危機拡大―ギリシャのデフォルトはあるか(竹森俊平氏の論説を読んで)

日本で最も信頼できる経済学者の竹森俊平氏が1月22日の読売新聞でユーロ危機について書いている。(「地球を読む<ユーロ危機拡大>」)
 まあ、新聞を読めば分かることで、無駄なことをしているようで面映ゆいが、ギリシャはデフォルトに陥るのか、それが今後全面的なユーロ危機に発展していく恐れはないのか、竹森教授の最新の分析を手がかりに当面のユーロ危機について整理・検証してみたい。

 竹森氏はまず”ユーロ危機が発生して3年、鎮静どころか新年早々暗転だ。”と断ずる。
 そして、短期、中期、長期のどれも出口が見えないとし、結論から言えば、ドイツにその大きな原因があると指摘する。ドイツの、南の加盟国(イタリア・スペインなど)への援助拒否の姿勢に危機が収拾に向かわない大きな原因があると分析する。

 短期の問題とはどいうことか。南北のインフレ率と貸出金利の差をを利用して北から南への資金が流入したが(向かった先は南の国債の消化と不動産投資)、リーマン・ショック以降、危険に敏感になった銀行が貸し出しを止めたことで、南で不動産バブルの崩壊が起き、国債の借り換えが立往生し、その結果北で銀行の不良債権の山が発生、危機に至るということである。
 これが短期の問題で、現在イタリア、スペインの国債金利高騰に発展しているユーロ危機の原因であるという。
 
 今日の新聞記事などによれば、ギリシャの債務削減をめぐる同国政府と民間債権者側との交渉が難航したとのこと。銀行などが保有するギリシャ国債の額面の半分を放棄した上で、新たな国債と交換する際の金利に焦点となっている。交渉が失敗に終われば、EUなどからの融資が困難になり、3月に償還を迎える145億ユーロのギリシャ国債がデフォルトする可能性があると言う。

 だが、1月19日付けの”フィナンシャルタイムズ紙(サム・ジョーンズ記者)によれば、仮に債権者と最終合意に達したとしても、同意の価値は紙くず同然かもしれないそうだ。つまり、協議に参加していない少数の債券保有者が合意内容を拒否する可能性があるというのである。少数の債券保有者というのは、複数のヘッジファンドなどのことで、彼らは、自分たちは交渉に参加しておらず、投資家が保有する国債の元本を50%削減し、受取り金利を引き下げることを軸とした「民間部門の関与(PSI)」には同意しないと話している。また、彼らによれば、やはり交渉で決まった条件に同意する動機を持たない保険会社や資産運用会社、年金基金も同じ考え方だという。
 ギリシャの債務残高2600億ユーロのうち、ギリシャと交渉中の債権者運営委員会が代表する投資家の国債保有高とECB他のユーロ圏中央銀行保有高を足してもなお、550億ユーロのギリシャ国債を有する民間投資家が残っているという。PSIに反対する少数派の債権者に新たな条件を飲ませる過程、例えば「集団行動条項(CAC)」を盛り込んだ新法を制定・行使して少数派の債権者に新たな条件を飲ませようとした場合、ギリシャ国債クレジット・デフォルト・スワップCDS)の発動を招く恐れがある。そうなればユーロ圏が本格的な銀行危機に陥るかもしれない。
 米国の某巨大ヘッジファンドが昨年顧客にこう述べた、とフィナンシャルタイムズ紙は伝えている。
”欧州の政治家は「ユーロ圏全域で国債のデフォルトリスクの再評価」を招くことになりそうなパンドラの箱を開けてしまったのだ。”

 だからと言おうか、ビル・エモット氏はギリシャは今後6か月以内にデフォルトに追い込まれ、ユーロ圏を離脱しなければならなくなる。他の重債務国に危機が拡がるのを防ぐため、同時にドイツがユーロ共同債導入に応じるだろう。」産経新聞の記者とのインタビューの中で述べている。首肯できる預言である。
 
 続けて竹森氏の見解を追ってみると、たとえ短期の問題が収拾しても、南の崩壊を防ぐには北の財政援助が必要だがドイツがそれを拒む、だから南の将来は暗いと言う。
 さて、問題のドイツのスタンスであるが、現在のメルケル政権の頑なさは、ユーロ圏で唯一資金力を有する権力国としての立場から他国に一層の縮財政を強要することに現れている。ひたすら財政規律を求めるのは、わが国の財務省とその忠実な代弁者である野田政権を彷彿とさせる。
 ドイツは直接の財政援助のみならず欧州中銀(ECB)を通じた間接援助も反対してきた。これがS&Pによるユーロ圏9ケ国の国際格付け引き下げにつながる。フランスなどの格下げに続いて、S&Pは欧州金融ファシリティー(EFSF)をAAAからAA+に格下げした。かくしてEFSFは弱体化し、今後起こりうる危機に対応できなくなった。他方でイタリア国債と欧州の銀行債の借り換えが1月〜4月に集中しており、事態は切迫している。そこでユーロ圏各国は、2013年7月に予定していたEFSFの後継となる「欧州安定メカニズム(ESM)」の本格稼働を本年7月に前倒しして本格的始動に舵を切った。(ただし発足を危ぶむ声も多い。)

 竹森氏は、今後ドイツは唯一資金力のある大国として、他国に緊縮財政を強要するであろうと言う。しかし、同氏によれば、ユーロ圏全体が緊縮財政一色になれば景気が下降し、減少していくGDPの下でGDPに対する赤字の比率を減らすのが難しくなる。ギリシャも1年間緊縮財政を試みたが景気の急降下で財政再建目標を逸し、ついに債権放棄を民間投資家に求めている。今後イタリア、スペインにも同じことが起こりかねない、とも述べる。
 竹森氏は結論として、だからユーロ問題は中期(と言ってもこの先1年)にも出口が見えず、ユーロの存続までが不確実になる、と言う。

 さて、日本の民主党政権も財政規律を守るためと言って景気下降を招く政策を次々に進めようとしているかに見える。しかしここに他山の石がある。日本も危険な道に踏み出そうとしているが、しかしその先は深い霧に閉ざされていて見とおすことができない。