「2012年、日本経済は大崩壊する」 朝倉慶著(幻冬舎、'11.7.10)

 
この著作が狙っている大きなテーマは、「リーマンショック以降世界中にばらまかれた常軌を逸するマネー」がもたらすインフレ、国債暴落などの世界連鎖危機である。
 著者の朝倉慶氏は、船井幸雄氏や副島隆彦氏と同列の裏読みの得意な経済評論家で、やや陰謀史観的で悲観一色の結論は何か思惑があるのかと疑念を抱かせ、何らかの方向へ読者を導こうという意図が働いているのかと考えてしまう。ただし、市場のコンピューター支配への告発や、日本の国債の危機的状況への視点は、まるでSF小説を読むようで、とても面白かった。

 著者は、6京円にも上るデリバティブの想定元本によって実体経済など関係ない金融ゲームの中に世界は陥り、この行きすぎた金融のゲームがバブルという形で世界経済を変えていった、とし、「いわば現在の経済学というのは、主流が2000年以前の考えであって、これほど金融が肥大化することなど考慮に入れていない。大半の経済学者が昔のメルヘンのような世界での経済を解説しているわけで、現状を見れば時代遅れも甚だしい、今となっては太古の恐竜時代の解説を聞いているようなものだ。」と喝破する。この辺りは小気味がいい。

 この著書で一つ分かったことは、国際業務を行う銀行のBIS規制も、生保のソルベンシー・マージン規制も、何かの力の働きによって金融機関をして大量に国債を買わせるべく誘導していく制度であるということである。例えばBIS規制では、OECD加盟国の保有する国債のリスクをゼロとしている。つまり、自己資本比率8%の対象となる信用リスクアセットから国債は除かれているのだ。とすれば当然銀行は国債を買って財務体質を改善しようとするであろう。

 著者の主張の主なポイントは、(1)コンピューターが支配する行き過ぎた金融拡大の末路は必然的に市場崩壊に行き着く。(2)商品価格の暴騰で2012年にインフレ爆発が起きる。(3)間もなく日本国債が暴落して日本は財政破綻に至る。この仕掛け人は、S&P、ムーディーズ、そしてヘッジファンドである。ヘッジファンドが狙うのはオプション取引である。日本国債の大々的な空売りが仕掛けられる。(4)米・中・欧のいずれも危機的状況に置かれている。米国はQE2が6月末に終了し、いよいよ債権相場の大暴落(インフレ)に向かう。中国は、信用創造バブルの崩壊かインフレで沈むかの二者択一。欧州(ユーロ圏)は、中銀総裁にゴールドマン・サックス出身のイタリアのマリオ・ドラギが選出されたことで、今後とめどないインフレに向かう。

 著者の最も訴えたいことは、無論、国債の暴落によって日本の財政破綻、つまり日本経済の崩壊は避けられない、ということに尽きる。上記の危機の多くは著者によれば大体2012年にやってくる。そういえば、2012年は団塊の世代が年金の受給年齢に達し始める年でもある。あらゆる兆候が、2012年の崩壊に向けて平仄を合わせて来ているかのようだ。

 さて、あらゆる事態が今後著者の説くような具合に揃って破綻に向かって進むのか、そして遂には悲劇的な結末に至るのか、それは全く”Uncertain”(不確実)である。